2018年05月06日

スマホ時代の写真店 企業が考えること、お店が考えること〔中編〕 写真店の「失われた20年」を取りもどすこれから先20年の道のり

*この記事は、2018年4月28日付記事の続きです。

  余談・・・〔前編〕より再掲載

今から50年以上前の街のカメラ屋さんは家族経営がほとんどで、お写真をお撮りに
なるお客さまを増やそうと懸命に、当時ぜいたく品と呼ばれていたカメラ(おじいちゃま
やお父さま、お兄さまの宝物、男の子の憧れ)の販売に努めてこられました。カメラの
自動化、小型軽量化、低価格化はカメラのユーザー層を拡げ、カメラ屋さんの何軒か
はチェーン店化してデジタルカメラやカメラ付ケータイの普及にも貢献し、スマホ時代
の基礎が築かれました。そして今、スマホ保有率は10〜40代では人口の90%前後
にまで達しようとしています(家族経営の街のカメラ屋さんは激減してしまいましたが)。
50〜60代のスマホ保有率も、10年しないうちに80%を大きく超えるかもしれません。

▽総務省調べ「スマートフォン個人保有率の推移」 -世代別-
 2011年及び2012年の数値は、同調査のインターネット利用率及びインター
 ネット利用機器利用率から推計(総務省)。
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(出典)総務省 通信利用動向調査   (c)総務省

  2000〜2020年は
  
真店の「失われた20年」?・・・〔前編〕より再掲載

私は東京の郊外で生まれ育ちましたが、1970年代は駅や幹線道路から少し離れた
住宅街にも自然にお店が集まったような通りがあって、写真店(カメラ屋さん)も大抵
軒を連ねていたものです。お店の商圏は半径1Km未満、徒歩10分以内で、同業の
お店がその中に数軒あっても共存できたのは、写真がぜいたく品で利益率も高かっ
たからでしょう。カラー写真プリント1枚の価格は、Lサイズよりやや小さいEサイズが
当時の値段で50〜60円はしました(消費税法施行は1989年から)。

 ご参考)
  富士フイルムのあゆみ カラーラボ市場の変化への対応

1980年代に入ると店頭でカラー写真フィルムの現像プリントサービスが提供できる
設備(ミニラボシステム)をメーカー各社が発売。2000年頃まで多くの写真店に導入
され全盛を極めました。その後フィルム現像とデジカメプリントとの両立の時代に入る
のですが、写真店で新規にサービスを始めるにはプリンター本体や店頭プリント受付
機のほか、カラーフィルム現像機、専用フィルムスキャナーなども別に導入する必要
がありましたから、家族経営のお店の場合、家族会議では相当意見が割れたのでは
ないかと想像してしまいます。新開発の設備でしたから当初は大変高価で、システム
一式、総額で旧来のおよそ3倍に及ぶ1500万円はしたでしょう。先刻ご承知の通り、
2011年以降スマホ時代に入ると、ソフトウェアのバージョンアップでは対応できない
店頭プリント受付機は壊れていなくても買換えを迫られ、またしても家族会議で意見
が割れる状況を招きました(当店でも合計5台ある店頭プリント受付機のうち1台だけ、
機種が古くてスマホプリントには非対応です)。都市部の駅前通り商店街などで自宅
を店舗にされているお店さんでも、判断を誤ると経営が破綻する時代がもう20年近く、
ズルズルと続いています。人口密集地ほどまだ、フィルムカメラ愛好家のお客さまは
ある程度いらっしゃいますから、そのようなお客さまとの関係を大事にし、既存の設備
で営業されているお店さんは少なくありません。その体制を維持したままスマホ時代
へ脱皮することは、店内スペースに余裕がないと難しいのではないかと心配されます。
事実、フィルム現像とスマホからの写真プリントと、両方のお客さまを同時に意識した
お店さんのWEBサイトは、チェーン店さん以外ではあまり見かけません。フィルムや
中古フィルムカメラの余剰在庫を思い切って圧縮し、生じた資金と店内スペースとを
店頭プリント受付機の増設に振り分けるという冒険は、やれなくもなさそうな気もする
のですが、なかなかできないのかな、と思います。

当店「安瑠芭夢家 しゃしんのポップ」では、フィルム現像関連の設備は、需要が低下
した時点で現像薬品のコンディションの維持が絶望的になったため、早々に撤去する
判断をしました。そのスペースが空いた分、富士フイルムさんから次世代店頭プリント
受付機 「WPS(ワンダープリントステーション)」が発売されたのを機に、その性能や
価格が安定するのを待って、2016年1月初旬から既存の設備へ増設するかたちで
導入開始しました。これが、例えばご両親が保守的で現場を譲ろうとしないお店さん
の場合後継者のご夫婦やごきょうだいの方は猛反対されてしまったりとか、あるいは
奥さまに反対されたりご主人に反対されたり、大変なご苦労をされている場合もある
かもしれないですね。当店は個人経営なのでそのような悩みとはおおよそ無縁では
ありますけど(それはそれで寂しいですが)。

店頭ミニラボがデジカメプリントへの対応を始めた2000年前後から、写真フィルム
の需要減少と、ようやく開拓したデジカメプリントのお客さまからまったく新しいスマホ
のお客さまへのユーザー層の交代劇に大小様々な写真店が翻弄され疲弊した20年。
1980年代初めのミニラボ黎明期から約20年間をカラー写真フィルムの「バブル期」、
写真店の「ゴールドラッシュ」と呼ぶなら、それに続く20年間を後からふり返ったとき、
写真店の「失われた20年」と呼ばれるのではないかと、私は勝手に想像しています。


ここからが〔中編〕です。

2018年5月7日追記)

▽富士フイルムさんのカラーネガフィルム現像機「FP232B」(詳しくはこちら)。
 今も販売継続中の現役製品です。当店でもある時期まで活躍してくれました。
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 (c)富士フイルム

▽富士フイルムさんが1998年に発表し世界中の大小の写真店に導入された最初
 のデジカメプリント対応、店頭用デジタルミニラボ「フロンティア350」(詳しい資料
 はこちら PDF)。デジタルレーザー露光方式の銀塩プリンターです。2006年9月
 まで販売されました。左はフィルムスキャナー。一時代を築いたのは確かでしょう。
180507_frontier_350.jpg
 (c)富士フイルム

▽当店で日々活躍している富士フイルムさんのデジタルレーザー露光銀塩プリンター、
 「フロンティア340E」(詳しくはこちら)。2003年春から稼動中。フィルムスキャナー
 は本体と一体型(現在は使用不可)。中は真っ暗。現像液は45℃。乾燥温度70℃。
 タフな働き者です。背後のシルエットは多分、上の「フロンティア350」。2002年から
 2007年3月まで販売されました。なお本体左下奥に「Windows2000」のパソコン
 を内蔵しています。当店の内臓パソコンは15年間故障知らず、フリーズ知らずです。
fuji_pht_03_01.jpg (c)富士フイルム

2018年5月7日追記)

  「PHOTONEXT」の前身
  20年前の「'98ラボシステムショー」を
  プロカメラマンの山田久美夫さんがレポートされていました

有名プロカメラマンでライターとしても人気が高い山田久美夫さんが、インプレスさん
運営のサイト『PC Watch』へ約20年前に寄稿されたレポートをご紹介したいと思い
ます。今拝読させていただくと、確かに20年前の状況を克明に伝えるレポートですが、
まるで現在から20年前を回想しているかのように、原文中でご指摘されているコメント
が今日の写真店業界の姿を的確に予言なさっていることに、たいへん驚かされます。
このページを20年間、削除せず公開し続けてるインプレスさんの運営方針にも感服
させられます。『デジカメ Watch』ではなく、当事は『PC Watch』の方で、このような
記事も扱われていたのですね。貴重なレポートを本当にどうもありがとうございます。
なお、蛇足になり誠に恐縮ですが、当ブログの2018年3月2日付記事も、あわせて
ご参照いただけますと幸いです。

レポートページへのリンクと要旨の抜粋を次に掲載させていただきます。引用が短い
と要旨が伝わりにくいことを懸念し、なるべく原文のまま引用させていただきました。
「ラボシステムショー」は現在、「PHOTONEXT」に統合され、毎年開催されています。
「PHOTONEXT2017」は当ブログ2017年7月10日付記事でもレポートしています。

  『PC Watch』 1998年6月22日付記事
  プロカメラマン山田久美夫の 「'98ラボシステムショー」フォトレポート
  最新デジタルカメラ やプリント機器が勢揃い
  https://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980622/labshow1.htm
*抜粋して引用

 〔前略〕

●各社出揃ったデジタルカメラ対応デジタルプリントシステム

 「ラボシステムショー」という名称からもわかるように、このイベントのメインはもちろん、現像所やミニラボ(店頭処理タイプのDP店)用の現像・プリント機器だ。
 この世界もデジタル化の波が急速な勢いで押し寄せているが、今年の「ラボシステムショー」最大の特徴は、大量処理を前提とした本格的なデジタルプリント用システムが各社から出揃ったところ。つまり、今年発表された新システムの多くは、「デジタルカメラからの大量プリント」への対応を前提とした展開がメインとなっている。
 昨年までもデジタルデータのプリント機器は出展されていたわけだが、それらはどちらかというと、少量のプリントなら対応できる程度のものがメインだった。
 しかし、今年のシステムは、一台のデジタル対応ラボマシンで、普通のフィルムからも、デジタルデータからもプリントが可能で、処理スピードも従来のフィルム専用タイプに近い大量処理ができるものへと進化している。このようなマシンが今年は、富士フイルム、コニカ、ノーリツ鋼機といった大手ラボ機器メーカーから発表され、各ブースで来場者の注目を浴びていた。ちなみに、ここでいう大量処理というのは、1時間当たり1,000枚単位のプリントを指しており、パーソナルプリンタのスピードとはケタが違う。
 もちろん、これらのマシンは、従来と同じくカラー印画紙にプリントするので、従来からのカラープリントと同じ品質を実現している。そのため、デジタルカメラからのプリントでも、データさえしっかりとしたものであれば、通常のフィルムからのプリントと見分けがつかないほど高品位なプリントが得られる。
 プリント方式には、インクジェットや昇華型、レーザープリンタなどいろいろあるが、保存性や再現性、作業効率、コストといった点を考えると、このカラー印画紙へのプリントという方式が一番現実的な選択といえる。
 さらに、このような本格的なプリントマシンを、従来からのミニラボマシンと同程度のスペースで実現している。この点が、今年発表された各本格派デジタルプリントマシンの最大の特徴だ。このようなマシンが街中のミニラボに導入されていけば、デジタルカメラからのプリントも、銀塩の1時間仕上げのようなスピードが実現できる時代になるだろう。

●富士フイルム、ミニラボ用レーザー露光式高画質プリンタ

 富士フイルムは、一昨年秋に発表された同社のデジタルプリントサービスの中核である大型のデジタルプリントマシン「フロンティア」と同じ技術を使った、ミニラボ対応マシン「フロンティア350」を発表。 サイズ的にもミニラボの店頭に楽に設置でき、一台でフィルムからはもちろん、デジタルデータからのプリントもカバーできる。しかも、価格はフロンティア(3,000万円前後)よりも低価格を実現しているという(現時点では価格は未定)。

 〔中略〕

●来るべきデジタル時代への布石

 今回のラボショーで出品された新システムは、すぐに発売されるというわけではなく、今年の年末あたりから市場に導入される機器だ。そのため、すぐにミニラボなどで、デジタルカメラからのプリントができる時代になるというわけではない。また、現実的にはまだまだデジタルカメラからのプリントサービスは一般的なものではない。さらに、残念ながら、デジタルカメラからのプリントだけでは現時点では採算がとれない。
 当然、各社とも、これらのデジタルプリントマシンを、デジタルカメラからのプリント専用に作っているわけではない。むしろ、当面はかなりの量を占めるカラーネガフィルからのプリントでの画質向上を狙った機能を付加することで、市場への普及を図っているのが現状だ。
 これらのラボ用マシンは、数百万から数千万円もするため、一度導入してしまうと、そう簡単に買い換えられるようなシロモノではない。それだけに、各社ともデジタルカメラが今後も普及し、そのプリント需要を見越した展開を図っているわけだ。もちろん、普通のカメラ店やミニラボに導入されれば、デジタルカメラからのプリントを、いちいち自分でしなくてもラボに頼めばいい時代になる。また、そうなればパソコンを使っていない人でも安心してデジタルカメラを、コンパクトカメラと同じ感覚で使えるようになる。その意味で、デジタルカメラからのプリント環境が整うことは、そのまま、デジタルカメラ普及のカギにもなる。
 ただし、そのときに問題になるのは、これらを扱うカメラ店やミニラボ店などが、意外なほど、デジタルに対しての知識がないことだ。写真という産業自体、十年一日のごとく、のんびりと進んできたのだから、ある意味では仕方のないことかもしれない。だが、今回のような業務系の写真関係イベントでの来場者の反応を見ていると、個人的には一抹の不安を感じざるを得ない。デジタルの時代に、写真業界はこれまでと同じ業態で、21世紀を無事迎えられるのだろうかと……。
「写真業界はこれまでと同じ業態で、21世紀を無事迎えられるのだろうかと……。」
ですよね、ですよね、21世紀に入ってもう18年目、ぜんぜん無事ではないです……。

笑えないです(-_-;

富士フイルムさんが、最初の店頭用デジタルミニラボ「フロンティア350」を発表した
1998年。その後次世代店頭プリント受付機「WPS(ワンダープリントステーション)」
が発売される2015年まで、17年も費やされています。もちろんWindowsパソコン
やモニターの改良を待たされたためで、決して富士フイルムさんがのんびりしていた
わけではないと思いますが。この間、2010年以降にスマホが本格的に普及し始め、
多くのお客さまがスマホでの経験を通じてタッチパネルの画面操作に慣れ親しまれ
てきたことは幸いでした。最初に店頭プリント受付機が導入された約20年前は店員
さんでさえ操作方法がなかなか理解できませんでしたから。時代も変わりましたね。
デジタルミニラボのプリンター本体は元々完成度も高かったのですが、店頭プリント
受付機はこれからもお客さまのご要望にお応えすべく常に進化し続けることでしょう。

 関連リンク)
  山田久美夫写真事務所公式サイト DigitalCamera.jp

山田久美さんの公式サイトには、私が初めてデジタルカメラを買った2000年頃から
今現在に至るまで毎日のようにアクセスするほどお世話になっています。とても勉強
になりますので、皆さまにもお薦めいたします。

  真店の「失われた20年」より
  さらに20年前を振り返って

今から約30年前、私が大学時代に店員のアルバイトをしていた某カメラ屋チェーン
のビジネスモデルはシンプルでした。そのお店の常連のお客さまは、例外なくカメラ
が好き。店頭にデモ機とパンフレットが手に取れるよう陳列され、奥には中古カメラ
の掘り出し物がズラリ。カメラ恋しさで特に用はなくても店内を覗いていってくださる
お仕事帰りのお客さまの、カメラ評論のお付き合いをさせていただくことが放課後の
私の日課のようでした。そしてほんのお義理でフィルムなどをお求めくださるのです。
職場の親睦行事やお身内のご婚礼等の際は流石に“大人買い”されて行きますが。
そのような場面でのカメラマンとしての腕前はプロ級のお客さま方ですが、フィルム
の現像、プリントのお会計時は領収証不要。つまり、代金は会費で賄われることより
ご自身でお支払いになることが多かったようです。それが紳士淑女の嗜み、社会的
成功や経済的なゆとりの証し(見栄? も少しはあったかのもしれません)でしたから、
学校の写真部などは別にして、カメラや写真は基本的に大人の趣味だと長い間みな
されてきたのでしょうね。そのような常連のお客さま方に、当時アルバイトをしていた
私の時給も支えられていたのです。たいへんありがたい、お客さま方との関係でした。
なお、その頃の現像、プリントは店頭仕上げではなく、すべてフィルムメーカー各社
の系列現像所から、撮影会や写真展、フォトコンテスト等各種イベントの案内を携え
たセールス担当さんが毎日集配に通ってくださっていました。店員さんは馴染みの
お客さまとの対面営業に専念できたので、今思えば誠に良い時代だったと思います。

アマチュアカメラ評論家の方々がフィルムやカメラ用電池のお客さま。このシンプル
なビジネスモデルは辛うじて、主に都市部の交通の要衝において、今なお健在です。

ほんの10年前まで、国内外の複数のカメラメーカーがフィルムカメラを生産してい
ましたし、今現在全世界的に見てフィルムカメラの生産はほぼ終了したとて言っても、
一部のプロ写真家用や社会主義国製の模造品くらいはどこかで生産しているだろう、
一時的に生産を休んでいるだけだろうと、依然信じようとしない方も(私の身内にさえ)
いらっしゃるくらいです(玩具的カメラやインスタントカメラは除く)。そうあっさり間単に、
一度築かれたビジネスモデルが崩壊することはありません。そのシンプルさゆえに。

現在確認できる範囲ではキヤノンさんの最高級機とニコンさんの最高級機及び入門
機が販売継続中の国内ブランドのフィルムカメラです。キヤノンさんは既に在庫僅少、
ニコンさんは在庫限りなのかどうかは非公開です。

 関連リンク) 2018年5月30日追記(本機の生産終了は2010年との報道です)
  キヤノン:2018年5月30日付ニュースリリース
  フィルム一眼レフカメラ「EOS-1v」販売終了と修理対応期間延長
  に関するお知らせ
  http://cweb.canon.jp/e-support/products/eos/180530eos1v-end.html

ドイツの高級ブランドの「M型ライカ」と呼ばれるフィルムカメラのシリーズは、非常に
高価ですが今も販売継続中です。フォトジャーナリストに愛されたカメラで定期点検
を怠らなければ長期の酷使に耐えます。ほとんど純機械式の工芸品のような精密
光学機械で操作はすべて手動が基本。高級腕時計同様に愛好家が多く、デジタル
カメラと兼用できる交換レンズの新製品は今も開発が続いていますから、資産価値
も高いと言えるでしょう。部品の多くは自社設計なので、再生産も可能と思われます。
1950年代の日本では複数の町工場で旧式「ライカ」の模造品が造られていました。

「ライカ」のような高級ブランドは手が届かなくても国産ブランドのフィルムカメラなら
程度の良い安価な中古品が市場に潤沢に溢れています。若い女性や学生さんなど
のお客さまの間でも人気が衰えず、静かなブームがまだこれからも続きそうですね。
ただし、職場の親睦行事やお身内のご婚礼等で役立つ実用的な趣味としてではなく、
あくまで知的でクリエイティブな趣味として。その辺りが30年前との大きな違いです。
例えば社員旅行に中古フィルムカメラを携行したとしても、草花の接写がご趣味なら、
それは望遠マクロレンズ(接写用望遠レンズ)付きのカメラだけの場合もあるでしょう。
スナップ写真のカメラ係を頼まれても、丁重にお断りせざるを得ないことを、幹事さん
に理解していただかないといけないことになりそうですね。スナップは当然スマホで。
(魚眼レンズ専門もよろしいかと思います。お買い得の掘り出し物を探してください。)

私が大学時代にアルバイトをしていた先述の某カメラ屋チェーンのキャッチフレーズ
は「あとあとまで面倒見のいい店」、社員さんへの教育方針は「お客さまに対してNO
と言うな」でした。「勉強し、差別化をし、闘争心を磨き、売り方の徹底的研究が必要」
と社長さんも主張してこられたカメラ屋チェーンさんはその後経営不振に陥り、同業
の「カメラのキタムラ」さんに統合され、その「カメラのキタムラ」さんも経営支援会社
の「リヴァンプ」さんにより経営再建中です(2017年9月30日10月17日付記事)。

「あとあとまで面倒見のいい店」、「お客さまにはNOと言わない」。スマホ時代だから
こそ今、そのようなお店がお客さまから求められているのだと私も考えさせられます。

広いカメラ売り場を持つ量販店さんは40年以上前からほかにもありましたが、私の
バイト先だった某カメラ屋チェーンさんの店舗は省スペースで、ご贔屓にしてくださる
お客さまは、カメラ売り場とフィルム売り場、プリント注文窓口のカウンターが同じで、
それらのすべてがバイトも含めた1人の店員さんに任せられるところを評価してくだ
さっていました。用件ごとに各フロアを昇り降りさせられるお店、デモ機やパンフレット
だけ目当てのいわゆる“冷やかし客”に冷たいお店は敬遠されていたのです。それが
デジタルカメラの時代になると、大好きなカメラ売り場とプリント注文窓口との間を繋
ぐ、フィルム売り場という一種の媒介役との縁を失い、長年の常連のお客さまはお店
に立ち寄る口実を無くしてしまわれたのでしょう。そのことを反面教師に、家族経営の
街のカメラ屋さんは、フィルムカメラの新しいファンの開拓にますます力を入れられた
のですが、その成功例は主に都市部の交通の要衝に出店されているお店さんに限ら
れるようです。

  真店の「失われた20年」を取りもどす
  これから先20年の道のり

▽【再掲載】
 総務省調べ「スマートフォン個人保有率の推移」 -世代別-
 2011年及び2012年の数値は、同調査のインターネット利用率及びインター
 ネット利用機器利用率から推計(総務省)。
180426_n1101020.jpg
(出典)総務省 通信利用動向調査   (c)総務省

総務省によると、2016年末の世代別スマホ個人保有率は全体で56.8%に及び、
20〜30代では90%以上の人がスマホを保有するまでに普及しているそうです。
ほぼ全員とみて良いでしょう(当ブログ2018年4月28日付記事より引用)。職場の
親睦行事やお身内のご婚礼等で、カメラ係さんは必ずしもいなければ困る存在では
なくなりました。一方でお写真やビデオ映像のデータはネット上でシェアできますが、
その管理責任者や管理方法のルールを前もって決めておく必要が生じるようになり
ました。スマホやパソコンを利用できない参加者のためにお写真をプリントして配布
する場合、その代金をどう負担するかも決めておかなければなりません。30年前の
ようにカメラの持ち主が気前よく負担してくれたり、現像済みのフィルムの管理者が
自然に決まるということもないわけです。見方を変えれば、写真店側からはセールス
すべきお客さまがどなたなのかが見えにくくなってきている、ということにもなります
反面、カメラ係さんをお客さまとして写真店同士が取り合うこともなくなるのでしょう。
ネット上でシェアしているお写真のデータをスマホにダウンロードし、それを写真店で
プリント注文するかどうかは参加者の方々が各自でお決めになることになりそうです。
今のモバイルデータ通信では大量のお写真データを送受信するには一定の制約が
ありますので、近い将来商用利用が始まる大容量移動通信の5Gに対応したスマホ
の普及に期待が高まります。

先述の総務省の調査では、2016年末のスマホ個人保有率は40代では79.9%、
50代では66.0%、60代では33.4%、70代では13.1%です。20代の94.2%や
30代の90.4%と比べると60代以上の世代は積極的にスマホを活用している印象
は薄いように感じられます。しかし40〜50代では保有率が70%前後ありますから、
単純に予想してこれより10年後(2026年末)の60代は多分80%を超えるのでは
ないでしょうか。2030年以降は65才以上の高齢者の方こそ(・・・私?)、スマホを
積極的に活用する世代になっても不思議ではないように思えます。その頃にはより
進歩したスマホに代わる通信端末が主流になるのでしょうか(使いこなせるかな?)。

誰の手元にもスマホがある今、毎日のあらゆる出来事がかけがえのない記念撮影
の対象になりました。当店「安瑠芭夢家 しゃしんのポップ」でもスマホのお客さまの
ご注文で特に多いプリントがお子さまやお孫さんの普段の生活のスナップ写真です。
あるいはお散歩やちょっとしたお出かけなど。以前は荷物になるから、充電が面倒
だからと、デジカメなど家に置いてきてしまうような催しでも、スマホは大活躍します。
もちろん、お祝い事やご旅行などのお写真も多いですが、それらを上回る成長です。
フィルムカメラや「写ルンです」が全盛だった頃はご旅行等での記念写真を早く現像
に出したいとき、フィルムの残ったコマで消極的に撮りきっていたようなシーンです。
フィルムメーカーさんにとってそれは一種のボーナスでしたが、わざわざフィルムを
買ってまで撮られることはなかったお写真が、スマホではとても積極的に撮られて
いるのです。本当に幸せな時代になったと思います。社会が求めた結果でしょうね。
多分、ケータイキャリアショップや家電量販店、スマホ未対応の古くからのカメラ屋
さんなどの店員さんは、スマホユーザーの方の撮影傾向については想像できない
のではないかな? と思います。Googleさんのクラウドサービス「Google フォト」
のコンピューターなら世界一詳しいかもしれないですが、人がその内容をのぞいて
見ることはできません(当店はお客さまのプライバシー権を十分尊重いたします)。

今50代前半の方はあと数年、40代の方は十数年経たないうちに初孫のお誕生に
恵まれる方もいらっしゃることでしょう。お仕事も現役のうちはご自身のスマホで写さ
れたり、子供さん夫婦とスマホを介してシェアされているお孫さんの成長記録写真の
プリント代は、おじいちゃま、おばあちゃまがご負担できるかもしれません。ところが
ほかの子供さんもご結婚され、お孫さんの人数が増えるにつれプリント代のご負担
も、次第に辛くなってしまうかもしれません。でも、お孫さんたち全員に良く目が行き
届くのはやっぱりおじいちゃま、おばあちゃまだと思います。ご親戚の皆さまが揃う
フォトアルバムは、おじいちゃま、おばあちゃまがいらっしゃるからこそ綴って行ける
ものではないでしょうか。子供さん夫婦は、子育てやお家のことで手いっぱいになる
と思います。今はご家族それぞれがスマホで繋がることができる時代です。お写真
のプリント代やアルバムづくりのことで特定の誰かが無理しなくて済むよう、ご家族、
ご親戚の皆さまでその都度話しあえるようにできるといいですね。

これから新しくおじいちゃま、おばあちゃまになられるお客さまは、スマホもデジカメ
もパソコンもインターネットも、元もと若い頃から使い慣れていらっしゃると思います。
だからこそ、お孫さんたちのために年齢を忘れて張りきり過ぎて、アルバムづくりで
経済的にも肉体的にも、ご無理をなされないようにしていただきたいと思うのです。
私たち写真店業界がどのようなサポートをさせていただけるか、これから先20年、
真摯に向き合っていかなければいけない、最重要課題ではないかと考えています。
私見ですが、人口密集地でも独身の方や核家族の方々がお住まいの賃貸住宅が
多い大都市近郊より、ほどほど田舎で農地や漁港等もあって、お写真を撮りやすい
明るい縁側や広いお庭のあるようなご親戚皆さまが集まれる二世帯住宅の割合が
多く、大切に手入れされている先祖代々のお墓も多い土地の方が、写真店の需要
もこの先安定するように感じています。都市部のターミナル駅周辺や幹線道路沿い
など交通の要衝への出店は、大手写真店チェーンさんにお任せしたいと思います。

余談ですが、これからの時代、都市部でも地方でも空き家や空き店舗が増えると
言われています。でも、問題はその量ではなく、質だと思います。特に女性の方は
シビアに評価されますから、これからご結婚をお考えの男性諸氏は覚悟しましょう。

 〜 〔後編〕へ続く 〜
posted by 安瑠芭夢驛(アルバムステーション) 吉 川 写 真 店 at 19:41| 業界の話題