2019年08月15日

片渕須直監督のアニメ映画『この世界の片隅に』を観て

*この記事は、当ブログ2019年8月9日付記事の続きです。

  片渕須直監督のアニメ映画
  『この世界の片隅に』を観て

私は当店臨時スタッフの仲田と共に劇場で鑑賞できましたが、
先日の初のテレビ放送で初めて本作をご覧になられた方も多いと思います。
まだご覧でない方のために、なるべく「ネタばれ」にならないようこの記事を書きました。

▽映画『この世界の片隅に』公式サイトより(こちらをクリック)。
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 (c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

片渕須直監督は当初、スポンサー探しにとても難航されました。
そこで映画の製作費をクラウドファンディングで募ったのだそうです。

 関連リンク)
  『ITmedia NEWS』 2017年4月14日 10時2分 付記事
  『この世界の片隅に』大ヒットでも……
  クラウドファンディングによる映画制作が「とてつもなく難しい」理由

原作は、漫画家でイラストレーターの、こうの史代さんの代表作です。
映画は2016年11月16日に全国公開され、ロングランヒットを記録しました。
初のテレビ放送はNHK総合テレビで、2019年8月3日午後9時からほぼノーカット
で放送されました。

 関連リンク)
  映画『この世界の片隅に』放送決定! | NHKアニメワールド (公式)
  <放送予定>2019年8月3日(土)午後9時00分〜午後11時06分
  https://www6.nhk.or.jp/anime/topics/detail.html?i=5463

物語は第二次世界大戦前後の、
広島県の広島市や呉市を舞台に描かれています。

▽映画『この世界の片隅に』公式サイトより(こちらをクリック)。
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 (c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

映画『この世界の片隅に』についてお話しする前に、
1940年代、第二次世界大戦時の戦時中や戦後の出来事について、
私が両親から直接話して聞かされたことを、お話ししたいと思います。

私の両親はともに東京出身で、
父の実家は板橋区常盤台(生家は豊島区)、母の実家は中央区佃にありました。
どちらの地域も昔から軍需工場の集積地で、アメリカ軍の空襲の標的にされました。
実際、父方の祖父も母方の祖父も、戦時中は軍需産業に従事していて職場は空襲
に遭い焼かれましたが、自宅は奇跡的に戦火を逃れ、家族全員無事生活できました。
父方の伯父たちは4人は成人していたので戦地へ赴き、幾度も危険な目に遭ったり、
うち1人はシベリア抑留まで経験していますが、全員、ほぼ無傷で復員できています。

戦時中の父の疎開先、栃木県烏山町(現 那須烏山市)も焼夷弾を投下されましたが、
比較的小規模な攻撃で父は気付かなかったようです。母は空襲警報で家族と防空壕
へ避難したそうですが、3歳になったばかりであまり記憶が無く、炎で真っ赤に染まる
夜空が印象に残っているだけだと言います。

家族や身内が誰も戦争へ行かず、住まいも職場も攻撃されずに済み、戦後は農業や
漁業をすぐ再開することができた日本人も少なくはなかっただろうと思います。敗戦の
実感も、そのような人たちにはもしかするとあまり無かったかも知れません。まだ子供
だったとはいえ、東京在住だった私の両親でさえ、そうだったのですから。

今のように誰もが衛星放送やインターネットで膨大な情報を世界中からリアルタイム
に手に入れられる時代ではありません。一国の首脳同士の私的な通信のやりとりが
ネット上で中継される時代がわずか72年後に訪れることなど、当時の誰が想像でき
たでしょう? 1940年代の日本にもグラフ誌はありましたが、対外宣伝のため、掲載
写真のトリック撮影や合成などの加工編集は(アナログで)毎度のことだったようです。
国家の検閲がそうさせていたのですから、国民が事実を知る機会は今より著しく限ら
れていたわけです。「小学生YouTuber(ユーチューバー)」がほとんどSF小説に書
かれる間もなく現実になってしまったことなど、当時の人たちの視点で見ればSF以上
の空想物語に違いありません。

父が覚えているアメリカ兵は、列車の窓から子供たちへチョコレートやチューインガム
を気さくに投げて寄こしてくれる極フレンドリーな人たちでした。練馬区にあった占領軍
のご家族の居住区、グラントハイツ(現 光が丘)へ乗り入れていた東武東上線の列車
の通過時刻が近づくと、踏切の周りに近所中の子供たちが集まってきたそうです(父は
みっともないからと加わらなかったそうですが)。『この世界の片隅に』の終盤でもそれ
と似た場面が描かれています。日本の各地で見られた光景だったようです。

もっとも、米兵にチョコやガムをねだっていた子供たちが、ただお菓子が食べたかった
だけだとは私には思えません。子供たちの好奇心はいつの世も大人の想像以上です。
今の子供たちが「YouTube(ユーチューブ)」の向こう側に夢中になるのと同じように。

戦場での体験や戦時中の生活のことを、戦後生まれの私たちに話し聞かせてくださる
人たちが高齢化し、当時の記憶が風化してしまうことが懸念されています。運良く戦災
を被らずに済んだ人たちも相当数いらっしゃったことは幸いだったと言えますし、その
人たちも戦後の復興や、その後に続く高度経済成長を支え会ってこられた一員です。
ただ、実際に戦争の過酷な体験をされた人たちとの間で戦争の悲惨な現実に対する
認識、戦争をした国の当事者としての認識が共有されてきたのかについては、正直な
ところ私には分かりません。戦時中の記録や体験を基にしたドキュメンタリーや物語
などもたくさん制作されてきましたが、同世代の人たちの間でさえ「そういう不運な人
たちも中にはいたのか」くらいにしか思われなかったとしても、決して不思議ではない
のではないかと考えてしまうのです。本当に、それで終わりなのでしょうか?

戦争を題材にした物語は、事実に基づくドキュメンタリーに近いものも空想世界のSF
ものも、ほとんどの筋書きは戦争が終わって結末を迎えます。『この世界の片隅に』も
一見、その例外ではないように描かれています。ところがその終盤には原作でも映画
でも、日本の敗戦を伝える玉音放送の後で、在日朝鮮人の人たちが掲げる『太極旗』
(朝鮮独立の旗)が風景に映し出されています(詳しくは原作や映画をご覧ください)。
日本のお隣の朝鮮半島で大戦後間もなく南北が分断され戦争が始まり、その戦争に
アメリカと、中国や旧ソ連も加わり、今も終結はしていないことになっています。そして、
原作や映画の中で日本の子供たちに(大人のはずのヒロインにまで?)チョコレートや
チューインガムを手渡していたアメリカ兵の人たちも、日本に設けられた米軍基地から
朝鮮半島の戦地へ赴き、大勢がそこで命を落としたと伝えられています。北朝鮮から
アメリカへのご遺骨の返還は、今も続いています。『この世界の片隅に』は負けたけど
戦争が終わって良かったね、という物語ではありません。戦争がまた繰り返される前、
負けたことが意味する深刻な現実について、ヒロインのセリフを通じて観客が考えさせ
られるよう、本当の結末を描かずに留めた物語なのです。歴史に「もしも」は無いとよく
言われますが、朝鮮半島で起きた戦争には日本も参戦させられていた可能性は十分
あったと言われます。あるいは、朝鮮半島だけでは済まされなかったかも知れません。
参戦しなくても北朝鮮に拉致された日本人被害者の方々は全員帰国できていません。
(詳しくはぜひ、原作や映画を、できましたら両方をご覧ください。)

『この世界の片隅に』は、原作は漫画作品ですから、最初からゆっくりと時間をかけて、
考えながら頁を読み進めることができます。絵柄は児童書の挿絵のようにとても可愛
く美しいので、セリフや能書き(?)を読むだけではもったいないです。アニメ表現でも
原作の絵柄の魅力は存分に発揮されていますが、原作の3巻分を約2時間に圧縮し
編集されていますので、1回鑑賞しただけでは筋書きが分かりにくいかもしれません。

 ご参考リンク)
  天下無敵のお嬢さま! - 童心社 (公式)
  https://www.doshinsha.co.jp/search/info.php?isbn=D9784494027989

最初はまず、戦時中の広島市や呉市を舞台にした、事実に基づくドキュメンタリー的な
作品として、当時を知る意味でご覧になると良いと思います。原作者も監督も時代考証
は極めて綿密で、豊富な知識や取材力、洞察力には本当に頭が下がる思いです。
(詳しいことは分からないのですが、多少マニアックな印象も受けるかもしれません。)
 ↑良く分かっているじゃないですか。

一方、作中まだ子供だった主人公の夫婦が初めて出会うきっかけになった人さらいの
化け物や、後に成長した2人が出会うスイカ泥棒の座敷わらしの少女も出てくるように、
この物語は“作り話”だからこそなお、読者や観客を魅了してやまないのだと思います。

戦時中の夫婦や家族の日常を淡々と描いた本作ですが、男と女としての夫婦の関係
については、出会いのきっかけも、ぎくしゃくするきっかけも、妖怪(?)が仕掛けたよう
に描かれているのです。ところが妖怪たちに悪意はちっともなさそうです。案外、現実
の私たちの日常も同じようなものなのかもしれません。

主人公の夫婦の結婚はほぼお見合いに近いのですが、ヒロインは相手がどんな男性
なのかも確かめられないまま嫁入当日を迎えました。実は私の母方の、祖父と祖母も
そうでした。2人とも福島県の庭坂出身ですが、祖父が東京の造船会社に就職するの
で、両家の親同士が祖母との縁談を急いで進めたそうです。私の両親もまた、お見合
結婚でした。縁談を勧めたのは、母の高校時代の恩師です。父から見れば、父の家の
長男の奥さまの、実の弟にあたる人が母の恩師でした。私の親戚を見渡してもお見合
は多いです。仕事も結婚相手も、自分の責任で自由に選べるというのは、当たり前の
ようで実はそうでもないようです。今の若い方々にも、相手を異性や恋愛の対象として
意識する前に、周りのお友だちやご家族にとってお2人の関係がかけがえのないもの
になり、結婚を決める方は少なくないでしょう。お見合いとは違いますが、縁でしょうか。

漫画やアニメ作品の筋書きは、純愛の末に努力と根性で試練を乗り越え己の人生の
目標を掴み取るようなものがヒットしやすいのですが、『この世界の片隅に』はその正
反対(?)の物語のせいなのか、片渕須直監督は当初、スポンサー探しにとても難航
されたのだそうです。

でも、映画はロングランヒットを記録し、世界各国で評価が高まっています。

 関連リンク) 【再掲載】
  『ITmedia NEWS』 2017年4月14日 10時2分 付記事
  『この世界の片隅に』大ヒットでも……
  クラウドファンディングによる映画制作が「とてつもなく難しい」理由
〔前略〕

「地味すぎる」映画、なかなか資金が集まらず……

 「この世界の片隅に」は、漫画家・こうの史代さんの代表作を原作にした映画で、太平洋戦争中の1944年、18歳で広島・呉に嫁いだ主人公「すず」の生活を描く。

 監督を務めた片渕須直さんは2010年ごろから構想を温め、広島を何度も訪れるなど企画を進めていたが、スポンサー探しに難航。真木さんが参加した13年時点で、資金調達のめどはまったく立っていなかった。

 「SFやファンタジーなど分かりやすいアニメではなく、戦時中の日常を描く作品で地味だったから」。その理由を真木さんはこう語る。

 スポンサーのめどが立たないまま制作を始めることになり、クラウドファンディングに目を付けた。真木さんは以前からクラウドファンディングについて勉強しており、「いつか使ってみたい」と考えていたという。

〔後略〕

(岡田有花)

出典)上記、『ITmedia NEWS』 2017年4月14日付記事より抜粋。

『この世界の片隅に』では、主人公も脇役も、過去に失意の底を経験したり、目の前の
できごとに絶望したり心を惑わされたりします。最後に、広島市内で原子爆弾に被爆し
て母親を亡くした幼い戦災孤児の少女が登場するのですが、母親との別れと引換えに
新しい家族と出会い、そこで愛情に満ちた幸せを見つけます。亡くした実の母親の愛の
代りなんてどこにもないはずですが、安心した少女が最初にしたことは眠ることでした。

最初はまず、ドキュメンタリーとして。
2度目はヒロインの目を通した夫婦の物語として。
そして3度目は戦災孤児の少女の目を通したつもりで、家族の絆の物語として。
『この世界の片隅に』は主人公たちの子供時代から始まる童話のような“作り話”です
が、くり返し鑑賞すると、それが大人のための童話でもあるように感じてくると思います。

登場人物たちが大切な何かを失って行く中で、
物語の中のすべてが愛おしいと感じられたとき、
それが何かを失う前よりもっと幸せなのかどうかは比べることはできませんが、
あらためて日常とは何なのか、そして戦争とは何なのかを考えてみたいと、
私は思っています。

今日、8月15日は終戦記念日です。

▽『この世界の片隅に』(11/12(土)公開)本予告 のスクリーンショットより。
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 (c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
 (c)東京テアトル/ Tokyo Theatres Ch.

 関連動画リンク)
  『この世界の片隅に』(11/12(土)公開)本予告 (公式)

 関連リンク)
  この世界の片隅に【映画】 (公式)
  https://konosekai.jp/

▽映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』特報2 のスクリーンショットより。
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 (c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
 (c)劇場アニメこの世界の片隅に

 関連動画リンク)
  映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』特報2 (公式)

 関連リンク) 2019年12月20日全国公開決定!
  この世界の(さらにいくつもの)片隅に【映画】 (公式)
  https://ikutsumono-katasumini.jp/

片渕須直監督の最新作アニメ映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、
こうの史代さんの原作に、より忠実な完全版ということです。
2019年12月20日の全国公開が待ち遠しいですね。
posted by 安瑠芭夢驛(アルバムステーション) しゃしんのポップ at 02:47| 未分類